公開基調講演 13:30~15:30

テーマ:「武道的身体知」
講 師:内田 樹
     (神戸女学院大学名誉教授・京都精華大学客員教授・昭和大学理事・武道家)
概 要:

     私は合気道という武道を40年間修業しており、大学退職後は神戸市内に合気道専門道場凱風館を創建して、門人たちの指導に当たっている。その修業と指導の経験を通じて、人間には驚くほど多様な能力が潜在するということ、それを開発するために豊かな実践的プログラムが存在することを学んだ。本学会の主題との連関で言えば、その中で(とくに少年部の指導において)、いくつかの遊戯が太古的起源を持つ「潜在能力開発プログラム」であることを知った。それはいささか堅苦しい言い方をすれば感覚器官(とくに触覚)の精度を上げることをめざしている。触覚知がなぜ武道的な感覚の中心であり、それが生命力の賦活において決定的重要性を持つのか、そのあたりのことを現場経験を踏まえてお話したい。

公開シンポジウム 15:45~18:15

テーマ:「遊戯療法の専門性と多様性」

シンポジスト
弘中 正美(山王教育研究所)

『前概念的コミュニケーションとしての遊戯療法』
遊びを媒体とした心理面接すなわち遊戯療法がなぜ有効なのかについては、必ずしも明らかになっていない。遊戯療法において、子どもは何ら言語的な洞察を行うことなしに治癒されていくことが多い。筆者は、「いま明らかに感じ、体験しているものの、言葉ではどう表現してよいか分からないもの(前概念的体験)」が人の決定的な内的変容を引き起こす、というジェンドリンの体験過程理論に着目した。 遊びは表現であると同時に体験であり、それも優れて前概念的体験である。ジェンドリンの考えを援用すれば、遊びの体験を通じて子どもが内的な変容をもたらされることを理解できる。それでは、子どもは遊びの体験のなかですべて必要なことを成し遂げていくのであろうか。そうだとすれば、セラピストは補助的な役割しか果たさないことになる。おそらくセラピストは、もっと積極的で主体的な役割を持っているはずである。このことを前概念的コミュニケーションの観点から考えてみる。

田中 康裕(京都大学大学院)
『発達障害への遊戯療法によるアプローチ』

演者が京都大学こころの未来研究センターで連携研究員として参加している「発達障害へのプレイセラピーによるアプローチ」(研究代表者:河合俊雄)というプロジェクトでは、発達障害の診断や判定を受けた児童に対し、半年間のプレイセラピー(無料)を行い、その前後にK式発達検査を施行することで、セラピーの効果について検討することを試みている(希望があった場合には、その後も有料でセラピーを継続)。専門医や専門機関の診断や判定を経て来談したにもかかわらず、その半数以上のケースは発達障害と見立てることが難しく、これ自体興味深い結果であるが、このシンポジウムでは、自閉症スペクトラム障害と実際に見立てることのできた一事例を紹介する。複数年にわたる経過のなかで、プレイセラピー・K式発達検査(半年毎に施行)・母親面接、これら三つの「層」で何が起こり、何が変わり、何が語られたのかを、主としてユング心理学の観点から論じたい。

平井 正三(御池心理療法センター)
『精神分析的視点による遊戯療法』

精神分析においては、遊戯療法は、精神分析的心理療法の一つの技法と捉えられています。そして精神分析的心理療法は、クライアントとの情緒的関係を育みつつ、それについて一緒に考えていくことで、クライアントが自分自身について考え、そしてコミュニケートできる力、つまり自己治癒力を培うことを目指します。その際、セラピストとクライアントとのコミュニケーションが重要な役割を果たすと考えます。一般に遊戯療法は「子どもと遊ぶ」セラピーと捉えられがちです。しかし、精神分析においてはそうは考えません。精神分析において、遊びは夢と同じように子どもが自分自身や人間関係について深く考える媒体であるとともに、自然な表現とコミュニケーションのチャンネルであると考えられていますが、遊戯療法も精神分析的心理療法の一形態であるという点で、それはセラピストと子どもとの情緒的関係、コミュニケーション、ともに考えていくことが中心的な営みであると理解され、それに基づいて実践されます。当日は、一般的な遊戯療法と分析的な遊戯療法との相違を指摘し、後者の意義について事例素材を挙げながら、詳しく述べていきたいと思います。


指定討論者
山中 康裕(京都ヘルメス研究所・京都大学名誉教授)
伊藤 良子(学習院大学大学院)
コーディネーター
國吉 知子(神戸女学院大学)